すでにクラウド ベースの Fusion Team や Autodesk Construction Cloud(ACC)があるのに、なぜ、インダストリー クラウドが必要になのでしょうか?
理由は「粒状データ」を扱う共通した「プラットフォーム」を提供するためです。
昨年、AU 2021:プラットフォームとしての Forge と経緯 の記事でもご紹介したことがありますが、オートデスクが「データ」に注目/改革して「プラットフォーム」を構築しようとしている点について、改めてご案内したいと思います。
クラウドの採用で、異なる場所にいる関係者とのデータ共有、コラボレーションといった作業が飛躍的に向上しています。更に、旧名 Autodesk Forge の各種 API を使って、そのようなプロセスやワークフローをカスタマイズしたり、タスクを自動化したりする環境を併用することで、更なる生産性の向上につなげることが可能になっています。
ただ、扱うデザイン データ自体はデータを作成した製品によって左右されてしまい、コラボレーション時の相互コミュニケーションで問題を生じてしまうケースがあるのも事実です。また、データは常に「ファイル」として扱われるため、デザイン データのほんの一部の情報を共有したい場合でも、大きなサイズのファイルを丸ごとコラボレーションに利用する必要があり、利便性に欠ける例も散見されています。最近では、ファイルサイズが肥大化しがちな BIM、3D データの活用で、その傾向が顕著です。
Forge を使ったクラウド環境では、約 70 種類のデザイン ファイルを変換、Web ブラウザにストリーミング配信する仕組みを導入することで、ファイル形式の差を打ち消すアプローチを提供していますが、ファイル主体の処理は変わりありません。
例えば、Inventor で作成したアセンブリ ファイルを共有したい場合、USB ドライブなどの物理的なメディアを利用しなくても、クラウドを介して関係者に渡すことが出来ます。ただ、完全なデータの解釈には、受け手側が Inventor を持っていることが暗黙の了解となってしまいます。もし、受け手側が Revit しか持っていない場合には、アセンブリ ファイルを開いて、その中から必要な情報を抽出することは出来ません。その逆も然りです。
そこで、ファイル形式とサイズの問題を解決すべく考え出されたのが「Forge Data」と言われたアーキテクチャと「粒状データ」です。
言い換えるなら、クラウドにアップロードされたファイルを、扱うべき最小単位に分解して「粒状化」することで、本当に必要なデータのみを自由に利用し合える環境の構築です。これによって「ファイル形式」を超えて、齟齬なくコミュニケーションすることが可能になります。また、Forge 登場時に考えられていた HFDM が持つデータ更新のリアルタイム性実現も期待することが出来ます。
「粒状データ」の利点は他にもあります。例として、設計変更が頻繁に起こりがちな「仕掛り中」の状態で、クラウドを使ってデザイン データを管理することを考えてみましょう。
1 GB ある Revit プロジェクト(.rvt ファイル)があると仮定します。このプロジェクトに、ドアのファミリ インスタンス タイプを変える変更を加えたとします。このファイルを BIM 360 やクラウド ストレージにアップロードすると、新しいバージョンが作られます。仮に、類似した小さな変更を 99 回加えて、都度、クラウド ストレージにアップロードすることを考えると、最初のバージョンも含めて合計100 GB のファイルがクラウド上に保持されることになります。(下図:左)
一方、最初のバージョンをクラウド上で「粒状化」して、粒状データの書き込みや読み込みの機能が Revit で利用出来るようになると仮定すると、ドア インスタンスに加えた変更だけをクラウド上に反映することが出来るようになります。このような変更を 100 回繰り返したとしても、全体のデータのサイズは 100 GBと比較するまでもなく小さいはずです。(下図:右)
粒状データを使ったデータ管理では、変更をアップロードした際の「スナップショット」をバージョンとして管理することになります。
現時点で上記のようなデータを扱える CAD 製品も存在しています。Fusion 360 です。
こういった環境を業種別に分けて提供するのは、業界別に扱うデータの粒状レベル、内容、種類などの違いがあるためです。
Autodesk Platform Services では、このアーキテクチャを Cloud Information Model と呼んでいます。
業界別には、Product Information Model(Fusion Data)、(暫定的に)AEC Information Model と M&E Information Model としています。 もちろん、これらを実現するのが、インダストリー クラウドとしてアナウンスされた、製造業向けの Autodesk Fusion™、建設業向けの Autodesk Forma™、メディア・エンターテイメント業向けの Autodesk Flow™ になります。
オートデスクは、Autodesk Platform Services の API 群を使い、既存のデスクトップ製品やクラウド サービスへの機能追加や新製品の導入で、今後数年をかけてインダストリー クラウドを形作っていく計画です。もちろん、その過程で、3rd party の開発者がカスタム粒状データを扱えるようになっていくはずです。
By Toshiaki Isezaki
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