オートデスクが正式にクラウド サービスを提供し始めたのは 2011 年のことです。主にデザイン ファイルの保存/管理やバックアップ、コラボレーションの機能を持つストレージ サービスと、図面編集(Autodesk WS) や レンダリング(Autodesk 360 Rendering )などのアプリケーション サービスの 2 種類に分けることが出来ました。ちょうどクラウドという言葉がさかんに聞かれるようになった頃でもあり、かなり注目されたトピックだったと記憶しています。
実は 2011 年以前にも、プロジェクト単位でのデザイン ファイル管理や関係者間のコラボレーションの機能を持った Autodesk Buzzsaw というサービスを開発していて、日本でも 2002 年に提供を始めていました。当時は、いわゆる ドットコム バブル と呼ばれるインターネット拡大期で IT 企業のインターネットへの対応が問われていた時代背景がありました。Autodesk Buzzsaw は、長らく建設業で広く利用されていましたが、クラウド利用やインターネット技術の成熟に沿って登場した BIM 360 Docs にあわせて、2016 年に新規販売を停止し、2019 年 1 月末をもってサービスを停止することが決定しています(参考:オートデスク製品に関するご案内)。
Buzzsaw の終息時期ということもあるので、今日は、2011 年以降にリリースされ、名称変更などの遷移を経て分かりにくくなってきているストレージ サービスについて、おおまかにまとめておきたいと思います。
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- Autodesk Cloud Documents と名付けられたストレージ サービスの提供を開始し出したのは、2011 年のことです。アップロードしたデザイン ファイルを関係者と共有するクラウドならではの機能と、それら、 2D 図面や 3D モデルを Web ブラウザで表示/閲覧可能という部分を強調していたサービスです。当時、Web ブラウザ上で 3D などのリッチ コンテンツを表示するのに Adobe Flash Player を利用するのが一般的であったため、プラグインやアドインをインストールする必要がないとう点は、Web 技術の進歩を感じさせたものです。
- ただ、Autodesk Cloud Documents はアップロードしたファイルをプロジェクトではなく、フォルダを作成して管理していく Windows エクスプローラ ライクな管理方法しか提供していませんでした。このため、まだまだ個人での使用を前提にしたつくりになっていた印象があります。また、表示/閲覧可能なデザイン ファイルも、あらかじめデスクトップ製品で出力した DWF(Design Web Format)のみでで、現在に通じる、デザイン ファイルのアップロード → 変換 → ストリーミング表示、の仕組みはまだ実装されていませんでした。
- その後、Autodesk Cloud Documents は再ブランド化の背策の元、2012 年に名称変更され、 Autodesk 360 となりましたが、フォルダ ベースのファイル管理をコンセプトにしている点は変わりませんでした。同時に、アップロードしたデザイン ファイルを一旦中間ファイルに変換して、ストリーミング表示する仕組みを初めて採用していました。ただし、変換対象としてサポートするファイル形式の数はまだ少数で、当初、変換処理自体も時間がかかったり、変換処理が止まってしまうなど、不安定な時期があったことは否めません(参考:Autodesk 360 クラウドのサポート ファイル)。
- 2014 年になって、A360 への名称変更とともに初めてプロジェクト ベースの管理機能を実装したサービスを導入しています。また、従来のフォルダ ベースの管理方法を踏襲した A360 Drive を同時に提供しました。この頃、デザイン ファイルの変換機能も安定し、新しくなったビューア機能を搭載したものに進化しています。ただし、残念ながら。A360 Drive 側のビューア表示機能は更新されていませんでした(参考:Autodesk 360 から A360 へ、A360 と A360 Drive、A360 とファイル形式)。
- フォルダ ベース管理の A360 Drive が持つビューア機能が、プロジェクト ベース管理の A360 と同等になったのは 2015 年 9 月のことです。この頃、複数のプロジェクトを扱うことが可能な A360 Team がサブスクリプション形態の有償版として正式に登場しています。
- A360 Team ユーザからのフィードバックによって、お客様の業種・業態によって求められる機能が異なる点は顕著になり、そういった声を実装に反映させることが 2016 年に決定されました。それが A360 Team が分化した建設業向けの BIM 360 Team、製造業向けには Fusion Team です。当初は、まったく同じ機能で名称だけが異なる印象でしたが、徐々に業態に合わせた実装を追加して、BIM 360 Team と Fusion Team のサブスクリプション価格にも差が出る結果になっています(参考:A360 Team の名称変更と BIM 360 Team のモデル比較機能)。なお、BIM 360 Team、Fusion Team をお使いの場合にも、A360 Drive に切り替えて利用出来るようになっています。
- BIM 360 Team は A360 からの流れを汲むストレージ サービスで、当然、プロジェクト ベース管理の機能も A360 から踏襲しています。ただ、BIM 360 Glue や BIM 360 Field 等のアプリケーション サービスとのストレージ機能の共通化と BIM 360 シリーズの整理統合に際して、建設業向けのクラウド ストレージ サービスを BIM 360 Docs に一本化する決定がされたため、2018 年 4 月に BIM 360 Team の新規販売を停止しています(参考:次世代 BIM 360)。
- 現在新規に導入可能なストレージ サービスは、A360(個人用)、Fusion Team(製造業の組織用)、BIM 360 Docs(建設業の組織用)ということが出来ます。
このように見ていくと、Forge の前身である View and Data API や、その後の Forge Viewer や他の Forge Platform API の公開時期とクラウド サービスの機能向上が同期してきていることがわかります。
なお、ここでご紹介したストレージ サービスのうち、Forge の Data Management API でアクセスすることが出来るのは、プロジェクト ベースで管理されている A360、Fusion Team(含む、A360 Team、BIM 360 Team)と BIM 360 Docs ストレージです。残念ながら、A360 Drive ストレージにアクセス可能な API は用意されていません。ストレージ構造に関する詳細は、Forge が使用するクラウド ストレージ を確認してみてください。
なお、Buzzsaw をカスタマイズするための Buzzsaw Toolkit も提供されてきましたが、Forge との互換性がまったくありません。また、2D 図面などを表示するめに、当初、特定の Web ブラウザ(Internet Explorer)に ActiveX コントロールをインストールしなければなりませんでした。
このように、Forge は(将来公開される)ストレージ サービスを含めオートデスクのクラウド基盤になっていることが想像に難くありません。
今後、HFDM などの機能が Forge に実装後、各種クラウドサービスに反映されていくことは自明なわけです。
By Toshiaki Isezaki
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