日本で多くの方が利用している Microsoft Windows XP オペレーティング システムのサポートが、来年4月に打ち切られてしまいます。このアナウンスは、以前からさまざまなメディアで取り上げられてきましたが、Windows XP 上でオートデスク製品をお使いいただいている方にも、もちろん影響があります。今回は、現在の設計環境に影響を及ぼす Windows XP のサポート打ち切りの影響と、その対策を、まとめてご紹介しておきたいと思います。
現在の状況を知る
最初に Microsoft 社がどのようなアナウンスとしているのか、確認してみましょう。分かりやすく説明をしているのは、製品ライフサイクルを説明した次の Web サイトです。まずは、このサイトを開いて、内容をご一読いただくことをお勧めします。
Windows XP、Office 2003 サポート終了の重要なお知らせ | Microsoft
http://www.microsoft.com/ja-jp/windows/lifecycle/xp_eos.aspx
次に、オートデスク製品をお使いの環境で、どの程度、Windows XP が利用されているか確認してみましょう。現在のオートデスク製品には、タイトルバー右上にある [?] ボタンや [ヘルプ] メニューの配下に、[品質向上プログラム] というメニューが用意されていることをご存じでしょうか?
このメニューをクリックすると、次のようなダイアログ ボックスが表示されます。
この [オートデスク品質向上プログラム] ダイアログの「はい。品質向上プログラムへの参加を希望します。」にチェックをすること、製品をお使いの環境に関するデータや、コマンドなどの使用状況がオートデスクのサーバーに送られます。[品質向上プログラム] の目的は、ここで同意を得たユーザからデータを収集して、次の開発に役立てるというものです。例えば、使用率の高いコマンドを次期バージョンの開発時に、メニュー項目上に大きいアイコンで搭載する、といった反映がされています。
ここで同意のもとに収集されたデータの中に、OS やメモリ、画面解像度などの情報が含まれています。また、 それらのデータは、[オートデスク品質向上プログラム] ダイアログ上の「自分の CIP デーやをプレビュー」リンクから、直接参照することが出来ます。オートデスク製品をお使いの全てのユーザ データというわけではありませんが、傾向 として、OS の使用分布を把握していただくことが出来ます。データは、リアルタイムに更新されています。下記の内容は、2013年10月6日現在のものです。
現在、一番利用されているのは Windows 7、次いで Windows XP であることがわかります。
Windows XP のサポート切れで起こること
Windows XP がリリースされたのは、2001 年 10 月です。当時、すでにインターネットに接続して利用することは一般的になっていて、徐々にコンピュータ ウィルスの危険性が叫ばれ始めた時期でもありました。Windows XP のリリースから 10 年以上経過して、周知のとおり、コンピュータ ウィルスなど悪意のあるプログラムも高度化してきています。Microsoft 社は、それらに対して Windows XP 用のセキュリティ更新プログラムをリリースし続けてきました。また、Windows 自身が持つファイアウォールの機能も、Windows Vista、Windows 7 とバージョンを挙げるごとに強化されてきています。
来年、4月に Windows XP のサポートが終了した後には、Windows XP 用の新しいセキュリティ更新プログラムは提供されなくなります。もちろん、Windows XP をそのまま利用し続けることも出来ますし、ウィルス チェッカー ソフトをお持ちの方は、新しいウィルス定義ファイルに基づいてセキュリティを維持できるかと思います。ただ、Windows 本体に対する更新が加えられなくなるため、どこまで防御か可能になるのか、不安も残ります。
設計環境への脅威は ?
設計環境でもインターネットに接続して利用することが一般化しています。また、オートデスクに限らず、IT ベンダーの多くは、積極的にクラウドの利用を啓蒙してきています。 オートデスクのクラウド サービスである Autodesk 360 へのアクセス時には、SSL 通信によってデータ通信自体を暗号化することでセキュリティを強化しています。ただ、この暗号化は、クラウドにデータをアップロードする前の環境、つまり、デスクトップ CAD 製品をお使いの Windows 上のセキュリティまで保障するものではありません。
実際、AutoCAD には、主に AutoCAD のカスタマイズ機構を悪用するような、いくつかのウィルスが次のように報告されています。
EXPLODE[分解]、XREF[外部参照]、XBIND[個別バインド] コマンドが使用できない
(TS13717811)Acad.vlxウイルスを検知し除去する方法
ATTEDIT[属性編集]、XREF[外部参照]、XBIND[個別バインド] コマンドが使用できない
(TS19860569) ACAD/Medre.A マルウェア FAQ
このような悪意のあるプログラムに対して、オートデスクも製品の機能を改良することで対処をしてきています。
AutoCAD 2013 SP1 における AutoLISP および VBA のセキュリティ制御について
設計環境に対しても、セキュリティ上の脅威が存在することがご理解いただけると思います。同時に、今後、Windows 本体の機構を悪用したプログラムが CAD 製品をターゲットしないとも言えません。可能であれば、Windows にウィルス チェッカーを導入するだけでなく、Windows 自身にもセキュリティ向上をし続ける仕組みい、つまり、セキュリティ更新プログラムを適用し続けられる新しい Windows バージョンが求められます。
現実的な検討と対策
最初に検討していただきたいのは、Windows XP を新しい Windows OS に置き換えていただくことです。この場合、1つ注意していただきたい点があります。現時点の最新の OS は Windows 8 ですが、10 月 18 日(日本時間では 17日)には、Windows 8.1 が正式にリリースされ、Windows 8 を所有するユーザは、Windows 8.1 を Windows ストアからダウンロードしてインストールできるようになります。問題は、いまのところ、オートデスク製品は Windows 8.1 をサポートしていない、という点です。このため、現実的な移行先となる Windows OS は、Windows 8 ということになります。
また、新しい Windows の導入とともに、コンピュータ ハードウェアの買い替えを検討される方もいらっしゃると思います。購入されるコンピュータの仕様の決定には、いまお使いのオートデスク製品の動作環境を再確認してください。この際には、必要なディスプレイ解像度、搭載メモリ、CPU などをチェックしてみてください。オートデスクでは、認定ハードウェアの情報も公開していますので、認定ハードウェア ページ も参考になるかと思います。もちろん、認定ハードウェアの利用は必須ではありません。また、CPU やグラフィックスカード、Windows を 32 ビット版か 64 ビット版にするか、といった選択子については、過去のブログ記事 も参考にしてみてください。
ハードウェアを同時に更新いただく場合には、Windows 8 だけでなく、ハードウェア ベンダが提供する Windows のダウンロード権限を行使して、Windows 7 を選択できる場合もあります。最新バージョンの 2014 バージョン製品は Windows 7 や Windows 8 をもちろんサポートしています。以前のバージョンのオートデスク製品をお使いの場合には、次のページで、Windows 7、または、Windows 8への対応を確認することが出来ます。
できれば、オートデスク製品のアップグレードも検討していただきたい項目です。先にご紹介したように、バージョンによってセキュリティ対策が施されています。特に、カスタマイズにかかわる部分など、セキュリティ機構は年々強化されつつあります。しかし、古いバージョンの製品に対しては、製品機能根幹にかかわる修正モジュール(セキィティ強化モジュール)の提供に限度があるの事実です。
仮想化環境の選択子
Windows やハードウェアの更新に際して、IT 部門が主導して仮想化環境への移行を検討される場合もあるかと思います。ここでいう仮想化環境とは、いわゆる シンクライアント環境 を指しています。
シンクライアント環境では、CAD 製品をクライアント コンピュータではなく、サーバー コンピュータで実行することになります。このため、クライアント コンピュータには極度に高パフォーマンスは求められません。既存のコンピュータをそのまま再利用できる可能性が残されます。また、サーバー コンピュータ上で製品を一元管理することが出来るので、メンテナンスが容易になる利点もあります。詳細は、過去のブログ記事でも紹介していますので、こちら も参考にしてみてください。
オートデスクでは、現在、Citrix Systems 社の仮想化テクノロジを利用した アプリケーション仮想化 と呼ばれる仮想化テクノロジと、デスクトップ仮想化 と呼ばれる仮想化テクノロジに対応しています。ただ、オートデスク製品によってサポート状況まちまちなので、まずは、http;//www.autodesk.com/citrix ページを対応状況を確認してみてください。
仮想化環境をサポートといっても、万能ではありません。ネットワークを介して画面を転送することになるので、クライアント コンピュータから見ると、CAD 製品の操作時にタイムラグが発生することは否めません。このような状態でも特に問題がない、あるいは、満足できる、といった方には、この利用方法を選択していただくことが出来るはずです。ヘビーユーザの方には、不向きと判断される場合もあるかと思います。
仮想化の導入には、強力なサーバー コンピュータと帯域幅の太いネットワーク回線だけでなく、従来の設計環境の構築にはない IT 知識も必要になります。投資効果も考えて、導入を検討する必要があります。
Windows XP のサポート切れも、あと半年まで迫ってきています。これを機に、設計環境の見直しを検討されてはいかがでしょうか?
By Toshiaki Isezaki
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