ご存じのように、オートデスクは数多くのデスクトップ製品を販売しています。同じデスクトップ製品でも、購入いただく際には、必ず、ライセンス タイプを決めていただく必要があります。今日は、オートデスクが提供しているデスクトップ製品のライセンス タイプについてご紹介したいと思います。
現在選択できるライセンス タイプには、スタンドアロン ライセンス、ネットワーク ライセンス、セッション用ネットワーク ライセンス の 3 種類があります。スタンドアロン ライセンスとネットワーク ライセンスは、かなり古くから提供されているライセンス タイプですが、セッション用ネットワーク ライセンスは、比較的最近導入されたタイプです。まずは、おさらいも含めて、それぞれのライセンス タイプの考え方をご紹介します。
ここでの説明では AutoCAD を例にとって紹介していきますが、Revit や Inventor、AutoCAD Design Suite や Product Design Suite など、他の製品に置き換えて考えていただくこともができます。また、一部の製品には用意されていないライセンス タイプもあります。例えば、単独で販売されている AutoCAD LT にはネットワーク ライセンスはありませんし、3ds Max Design にはセッション用ネットワーク ライセンスは用意されていません。なお、Suite 製品には、カスケーディング という考え方もありますが、今回は詳細には触れません。
スタンドアロン ライセンス
スタンドアロン ライセンスは最も基本的なライセンス タイプです。ソフトウェアを特定のコンピュータでのみ実行させる場合に最適です。ライセンスを共有する必要がなく、コンピュータから別のコンピュータに移動させる必要がほとんどないか、まったくない場合には、こちらのライセンスをおすすめします。
AutoCAD 2000 以前のバージョンには、ハードウェア ロック(通称、ドングル)と呼ばれる機器をプリンタ用のパラレル ポートに接続することでライセンスを識別していました。つまり、AutoCAD はコンピュータにインストールされていても、ハードウェアロックが差し込まれていないと起動できない仕組みです。AutoCAD 2000i からは、このハードウェアロックに替わって、ソフトウェアロックの仕組みが導入されています。ソフトウェア ロックでは、使用するコンピュータを限定するために「アクティベーション」と呼ばれる手続きをおこなう必要があります。アクティベーションが完了していないコンピュータ上では、30日を経過すると、インストールされた AutoCAD が使用できなくなっていまいます。この30日間が、いわゆる「お試し期間」になっています。次の動画は、アクティベーションまでの簡単な手順です。
アクティベーションには、コンピュータ毎に生成される「リクエスト コード」が必要になります。リクエストコードは、お試し期間中の製品起動後に [アクティベーション] ボタンから表示させたり、製品起動後に [製品バージョン情報] などのインタフェースから表示させることができます。
このソフトウェアロックの仕組みは、現在に至るまで、同じ会社のテクノロジを利用しています(旧 Macrovision 社、現 Flexera Software 社)。AutoCAD 2000i~2004 までは C-Dilla、AutoCAD 2005~2009 までは SafeCast、AutoCAD 2010 からは FLEXnet Publisher が使われています。
ネットワーク ライセンス
ネットワーク ライセンスは、スタンドアロン ライセンスとは異なり、ライセンスのみをライセンス サーバーで管理します。設計者が実際に利用するコンピュータとはネットワークを介して接続され、個々のコンピュータ上には AutoCAD が個別にインストールされている必要があります。ここでは、ライセンス サーバーに 5 つのライセンスがプールされていると仮定してみましょう。下記の動画は、次の基本的な仕組みを説明するものです。
- クライアントでAutoCAD を起動すると、AutoCAD はライセンス サーバー上で利用可能なライセンスがあるかをチェックします。ライセンスが利用可能な場合、ライセンス サーバー上のライセンスが1 つ消費され、クライアントのAutoCAD が起動します。
- ライセンス サーバのライセンスがすべて消費された場合、AutoCAD の起動は拒否されます。
- クライアント上で AutoCAD を終了すると、ライセンス サーバーにライセンス が返却されます。この状態であれば、別のクライアントでAutoCAD を起動することができます。
スタンドアロンに比べた ネットワーク ライセンスの利点は、次の4点に集約されます。
柔軟で効率的なライセンスの運用
ライセンスが社内ネットワーク全体を “浮動” できるため、必要に応じてコンピュータから別のコンピュータへとライセンスを移動させることが可能です。クライアント ソフトウェア(ユーザのコンピュータにインストールされたアプリケーション)と、ライセンス サーバーにインストールされたネットワークライセンス管理ソフトウェア間で通信を行うことにより、この自由なライセンス体系を実装できます。
使用状況の把握
すべてのライセンスがライセンスサーバで管理されるため、管理者はライセンスの使用状況を常に把握できます。Network License Manager の追跡ツールにより、たとえば部門別の使用ライセンス総数や指定したユーザの週当たり総使用時間、拒否されたライセンス要求数など、さまざまなレポートを作成できます。こうしたデータは、ライセンスの日常的な管理に役立つほか、将来のソフトウェア投資予算の設定や予測にも有用です。
制御機能
ネットワーク ライセンスでは、個別のユーザやグループによるソフトウェアへのアクセスを管理者が制御できます。ソフトウェアをインストール、アンインストールしなくても、ライセンスをグループから別のグループへ移すことが可能です。ユーザごとにライセンスへのアクセスを保証したり、拒否したりできます。必要に応じて、特定のネットワークライセンス機能(ネットワークからライセンスを借用する機能など)の有効化/無効化も可能です。
標準化
AutoCAD の Network License Manager は、ネットワークライセンスの業界標準である、Flexera Software 社の FLEXnet® テクノロジーを基盤にしています。FLEXnet を基盤にしたことで、ネットワークライセンスのユーザは、業界標準であり、かつ最新技術が実装されたネットワーク ライセンス テクノロジのメリットを享受できます。2,500 社以上のソフトウェアベンダーが FLEXnet を使用しているため、すでに社内に FLEXnet テクノロジが導入されているかもしれません。
セッション用ネットワーク ライセンス
このライセンス タイプは、いわゆる シンクライアント環境 で利用する アプリケーション仮想化 を目的に用意されたものです。サーバーに Network License Manager をインストールしてライセンスを管理する点はネットワーク ライセンスと同じですが、サーバーOS上に AutoCAD をインストールして実行させ、ネットワークに接続されたクライアント コンピュータに画面を配信して AutoCAD を操作/運用する点が異なります。設計者が利用することになるクライアント コンピュータには、配信された画面を表示したり、ユーザのマウス操作などをサーバーに返すための Citrix Receiver というツールをインストールするだけで、AutoCAD をインストールする必要はありません。
また、このライセンスでは、消費されているライセンスのカウント方法もネットワーク ライセンスと異なります。ネットワーク ライセンスでは、クライアント コンピュータ上で起動された AutoCAD があると、1ライセンスを消費します。その後、同じコンピュータ上で AutoCAD を複数起動しても、消費されるライセンス数に変化はありません。別の言い方をすれば、1台のコンピュータ上で複数の AutoCAD を起動しても、消費されるライセンスは1つということになります。
ところが、アプリケーション仮想化環境の場合には、1つのサーバー、つまり、同じコンピュータ上でクライアントに配信すべき複数の AutoCAD を起動する必要があります。通常の考え方であれば、消費されるライセンス数は1つになってしまいます。このため、クライアント用に起動する AutoCAD を正しくカウントする仕組みが内部的に導入されています。このライセンス タイプが、セッション用ネットワーク ライセンスです。
下記の動画は、Cirix XenApp 環境で AutoCAD を仮想化して運用する際のライセンスの考え方を示します。
セッション用ネットワーク ライセンスには、ネットワーク ライセンスで紹介した4つの利点に加えて、もう1つ重要な利点を加えることができます。メンテナンスの容易さです。この場合、AutoCAD は直接サーバー上にインストールされることになるので、AutoCAD などに修正モジュールは用意された際に、サーバー上の AutoCAD に修正モジュールを適用すれば完了です。ネットワーク ライセンスのように、各クライアント コンピュータに個別に修正モジュールを適用すてまわる必要はありません。
最近では、企業内のサーバーを使ってアプリケーションやデスクトップを仮想化して運用する際、シンクライアントという呼び方よりも、プライベート クラウドと呼ぶことのほうが好まれるようです。Citrix XenApp のクライアントツールとなるのは、前述のとおり Citrix Receiver です。Citrix Receiver は Windows 以外にも、OS X(Mac) や iPhone、Android 用が用意されています。日本で販売している AutoCAD は Windows に特化していますが、このライセンス タイプを使ってサーバー(Windows Server)上で実行した AutoCAD をクライアントに配信する場合、Citrix Receiver さえインストールされていれば、クライアントのハードウェアは区別しません。たとえば、クライアントに Mac や iPad を使い、サーバー上で動作している AutoCAD を操作することもできるのです。AutoCAD 360 などのクラウド サービスはプライベート化出来ない仕様なので、操作性がどの程度かは別として、プライベート クラウドでの運用として、大変ユニークな利用方法であると思います。
注意点も存在します。クライアント コンピュータから見たパフォーマンスです。セッション用ネットワーク ライセンス版 AutoCAD を Citrix XenApp 環境で仮想化して配信した場合、サーバー上で表示される画面をクライアントに転送したり、クライアント上の操作をサーバーにフィードバックするしたりすることで、「間接的」にサーバー上の AutoCAD を操作することになります。このため、ネットワーク帯域が狭い(遅い)と、動作自体に遅延が発生して、設計者の操作に追従できないケースが発生することがあります。ですので、こういった仮想化環境での使用を検討されている方は、事前に評価をしていただくことを強くお勧めします。次の Autodesk Knowledge Network も参考にしてみてください。
Citrix XenApp対応版AutoCADのパフォーマンスを改善するための推奨設定について
Citrix XenApp対応版Autodesk製品はハイパーバイザー環境をサポートしていますか?
最後に、セッション用ネットワーク ライセンス タイプのライセンスを利用した AutoCAD は、現在のところ、Citrix XenApp のみをサポートしています。
ここまで、基本的なライセンス タイプと考え方を紹介してきました。機会を改めて、ネットワーク ライセンスのサーバー構成や、デスクトップ仮想化、ライセンス マネージャの仮想化について紹介する予定です。
By Toshiaki Isezaki
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